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サイト『果てない大地 遠い空』の別館です。 異文化SchoolDays企画でのチャットに関するレポート、なり茶告知の場所です。
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銀陽パロ小説できたああああぁぁぁ!!!!!!!!!!
世界観的には以前書いた空月小説『鳥とお姫様』のシリーズ、でもこれよりも少しだけ進んだ時代のお話かもしれない。
途中までノリノリで書いていたものの、我に返ると何を書きたかったのか分からない代物になっていました。

出演:銀牙・ナスク

銀ちゃんお借りしましたあぁ!!!


ざくり、ざくり。
キンとした冷たい空気の中、氷を踏む音が耳に心地良い。
ふと足を止めて前方を凝視する。
雪の中に埋もれるように隠れている、この時期のこの辺りでは見る筈のない“色”を発見したのだ。
それは、マントに身を包み、眠るようにして倒れている一人の少女だった。
ひくり、と男の鼻が確かめるように動く。
立ち止まって窺うように見つめた後、男はその“色”の方へ歩み寄った。



『銀の太陽』



ぼんやりと意識が戻る。
ここ数日の間に慣れてしまった筈の、固い雪と凍える感覚が消えている事に気付く。
パチパチとはぜる音に視線を動かしてみれば、勢いよく燃える炎の向こうで見知らぬ男がこちらに背を向けていた。
「…あの…」
起きあがって声をかけると彼が振り向く。
「気がつきましたか!良かったであります!」
にっこり笑って手にしたものを置くと、立ち上がってこちらへやってきた。
男を間近で見て少女は目を見開いた。
伸び放題になった男の長い髪は見事な銀白色。
彼が持っている自分にはないもの―――それは太く立派なフサフサの尾、狼のように尖った獣の耳、そして口から覗く鋭く光る牙。
ただの人間ではない事は一目瞭然だった。
噂は少女も耳にしていた。
街からずっと北の方、一年の半分は雪と氷に覆われている森の奥に、恐ろしい化け物が棲んでいる。
その者は獣の耳と尾を持ち、山を支配し、近付く人間を喰らうのだという。
それは。
「―――雪の王…」
呟いた少女の言葉に男が視線を戻し、きょとんと首を傾げた。
「何か言いましたか?」
「…何でもない、です」
ふるふると彼女は首を振った。
雪の王など怖くはなかった。
そんな話は信じていなかったし、たとえ魔族が実在していてもいいと思っていた。
でも目の前にいるこの男は、意図がどうであれ自分を助けてくれたようだ。
気を失う前、確かに自分は真っ白な雪と霧に包まれて凍えていた筈なのに。
おそらく彼のものなのだろう、寝かされていた藁の上に敷かれた毛皮のベッドは、少しゴワゴワするが温かい。
数日ぶりに取り戻した身体の感覚を噛みしめて、少女はベッドから抜け出した。
その様子をジッと見ていた男が唐突に笑顔になって口を開く。
「あなたは人間でありましょう?珍しいですね、人間がこんなところまで来るなんて。もう少しで凍傷になっていたところであります」
どうやら丸一日近く眠っていたようだ。
最初はもう駄目かと思ったが、次第に顔色も良くなってきて安心したと男は機嫌良く説明する。
不意に、黙ったまま自分を見ている少女に気付いて、一人で喋っていた男が彼女に視線を向けた。
具合はどうか、と尋ねる彼の視線を受けて、ようやく少女は少しだけ笑った。
「…貴方が助けてくれたのですね?ありがとうございます」
その笑顔に、ホッとしたように男の表情が和らぐ。
「貴女さえ良ければ、体調が戻るまでここでゆっくりしていけばいいであります。自分は銀牙という者です」
何か言いかけて口を閉じたものの、ちらりと銀牙の方を見やって少女が躊躇いがちに再び口を開いた。
「―――あたしは、ナスク…です」


その少女ナスクは、雪の中をこの山奥まで一人で来たそうだ。
雪に埋もれて隠れていた崖から落ちて足に怪我を負い、這うようにして進むうちに吹雪に見舞われてそのまま気を失ったという。
銀牙がナスクを見つけたのは、ちょうどその時だろう。
怪我をした足は骨折しているかもしれなかった。
ナスクは大丈夫だと言い張ったが、立てないのではどうしようもない。
銀牙の勧めで、しばらく留まる事になった。

「元々ね、別にどこへ行こうって訳じゃなかったんだ」
行き先もなければ急いでいる訳でもない。
ただがむしゃらに馬を走らせ、道が険しくなってからは馬を解放して自分の足で歩いてきた。
こう見えても狩りは得意なのだと笑って弓矢を見せるナスクに、銀牙が不思議そうに首を傾げる。
「どうしてわざわざこんな所まで来たでありますか?」
「…北の国に行ってみようかなと思ってた。当てはないんだけどね」
僅かに表情を曇らせたナスクがパッと銀牙の方を見た。
「銀ちゃんは一人で住んでるの?仲間とかいないの?」
「一人でありますよ。仲間は狼達の群れがいますが、彼らは森に住んでいるであります。昔は色んな事を教えてくださった方がいましたが、自分が幼い頃にここを去われました」
その者が洞窟の中を住みやすいように整え、銀牙に雪山で生きる術を叩き込み、彼の生きる場所はここだと教えたのだそうだ。
―――ああ、それで…。
ピクピクと動く耳、時折バサリと振られる尾を見て思う。
それで、人間と異なる外見を持つ彼が今まで平穏に暮らせてきたのだろう。
中途半端に獣の特徴を持つ銀牙は生粋の魔族ではなかった。
両親のどちらかが魔族でどちらかが人間という、両方の血を持つ者。
魔族と人間の混血児が生まれる事はごくたまにある事だ。
そういった者達は畏られ忌み嫌われ、人間の世界から弾き出されるのが常だった。
純血に比べると力が劣る彼らは、魔族の中にも受け入れられる事はない。
自分を助けてくれた目の前の青年もそういった者の一人なのだろう。
恐ろしい雪の王と噂はされても、命の危険を犯してわざわざ会いに来る者はいない。
一時期は共に暮らしていたというその心ある者が、彼を人間の来ない山奥まで連れて来て、一人でも生きていけるよう手筈を整えたのではないかと推測出来る。
「…そっか。良かったね。でも、寂しいね」
静かに言うナスクの言葉に、銀牙が腕を組んでうーんと唸った。
「たまに人間がこの辺りに迷い込む時はあるのですが…自分を見るといつも逃げ出すのです。人間は恐がりであります」
理解出来ぬという顔でそう言い、ふとナスクを見た。
「ナスク殿は逃げなかったでありますね。人間が来るのも珍しいですが、ナスク殿のような人間はもっと珍しいであります」
しばらく銀牙を見ていたナスクは視線を反らした。
「怖くないよ。魔族との混血って言ったって、別に…」
言葉を切り、ふっと笑って銀牙の側に寄る。
「そんな風にボサボサの髪してるからだよ。まるで化け物みたい、そりゃ見ただけで一目散に逃げるって。ちゃんと髪をとかしてまとめたら、少しは違うんじゃないかな」
背後に回って丁寧に髪をとかし始めるナスクに、銀牙の尾が嬉しそうに跳ねた。


山の天候の変化は早い。
急に空が暗くなり、重く垂れ込めた雲が辺り一帯を覆った。
太陽が隠れると一気に冷え込む。
「帰りましょう、ナスク殿。荒れそうです」
ブルルと身体を震わせるナスクに、獲物を担いだ銀牙が声をかけた。

ちらほらと舞い始めた雪はすぐに大雪となり、絶え間なく降り続いた。
風も出てきた。
光のない暗い森の中、横殴りに吹く強い風と大粒の雪、風で巻き起こる雪煙が一帯を真っ白に覆い隠した。
それは何日も続いた。
こうも休みなく天気が荒れ続けるのも珍しい事だった。
一歩でも外に出たらたちまち雪に覆われ、風の中で身動きが取れなくなる。
幸いにも、こういう時の為の食べ物の蓄えは二人分たっぷりとあった。
時折銀牙が火にくべる薪を取りに外へ出る以外は、ずっと洞窟の中に閉じ込もっている。
轟々という風の音が絶え間なく響いて、まるでその音に包み込まれて身体の芯まで染み込んでくるようだ。
例年にない豪雪による冷え込みは洞窟の中にまで忍び込み、火の温もりよりも早く温度を奪っていく。
小さなナスクの身体は、絶え間なく小刻みに震えていた。
「寒いでありますか?大丈夫ですか?」
心配そうに覗き込む銀牙に頷いて大丈夫と答えるナスクの顔は青い。
赤い炎は確かに燃えているのに、何故かあまり温度を感じなかった。
「体力とか、身体能力は、人より自信あるんだけど、ね。あたし、寒いのだけは、駄目なんだ」
カチカチ鳴る歯の奥からようやくそう言うナスクを見て、銀牙が薪をくべる手を止める。
いい事を思いついたとにっこり笑い、ナスクの背後に回り込んで座ると包み込むようにナスクを抱きしめた。
「こうすれば寒くないであります!」
自信満々に言う声。
きょとんとした顔でされるがままになっていたナスクもまた、不意に笑みをこぼした。
銀牙の温もりがじんわりと背中から伝わる。
ほんわかと体温が染み渡って、ナスクの身体の震えが徐々に治まっていった。
「ナスク殿は温かいでありますね」
「冷たいでしょう?明らかに、銀ちゃんから体温をもらってるもの」
不思議そうに言い返すナスクの耳元で銀牙が笑う。
ぎゅうと、抱きしめる腕に力が込められた。
「温かいでありますよ。自分は父も母も記覚えていませんが、幼い頃はよく恩師がこうやって抱きしめてくれたものです。人肌が、一番温かいのです」
「…あたしも同じだよ」
微かに笑って、ナスクも銀牙の腕の中に身を縮めた。
「あたしも同じ、お父さんもお母さんもいないの。こうやって誰かに抱きしめられるなんて何年ぶりだろ」
体温以上に、心が温かい。
銀牙の声が、笑顔が、柔らかい視線や優しい思いが温かい。
この場所はとても居心地が良かった。


遠く轟く地鳴りのような音に、ナスクの眠りは妨げられた。
自分を抱きしめたまま眠る銀牙の腕からそっと抜け出す。
微かに腹の底に響く振動。
強く重苦しい風の音はもう聞こえなかった。
眠ったままぴくぴくと耳を動かす銀牙を、ナスクはそっと揺り動かした。
「銀ちゃん。…この音、何?」
起こされて覚醒しきらないままぼんやりとしていた銀牙の耳が、突然ピンと立つ。
バサリと尾を振って立ち上がると、出口に駆け寄って大きく扉を開け放った。
「ナスク殿、吹雪が止んだでありますよ!」
突然の眩しい光に目を細めるナスクを置いて、銀牙は勢いよく外へ飛び出した。
後を追って外へ出たナスクは息を飲んだ。
目の前に広がる、白銀の世界。
前日までの吹雪が嘘のように晴れ渡り、柔らかく降り積もった新雪が太陽の光を反射してキラキラと輝く。
「行きましょう」
銀牙が手を差し伸べた。
「見晴らしのいい場所があります!ナスク殿もきっと気に入るでありますよ!」

洞窟から少し離れた緩やかな傾斜を登り、階段のようになっている小さな崖の連なりでは銀牙がナスクを抱え上げて跳んだ。
雪の重みで頭を下げている低木の枝をかき分け、銀牙はどんどん進む。
不意に、二人は開けた場所へ出た。
そこは地平を一望出来る、高い高い崖の上だった。
周囲にそびえる碧い山麓、真っ白な雪の下に黒々と連なる森。
その向こうに茂みのような林が続き、それはなだらかな丘となって雪のない平地へと続いている。
目の前の壮大な景色にナスクは息を飲んだ。
そんな彼女の様子に銀牙は満足そうな表情をして、軽く跳ぶと近くの岩の上に立った。
澄み切った空気の中、刺すように冷たい風が銀牙とナスクの髪を揺らした。

また、どこかで遠い轟きが聞こえた。
自分を見上げるナスクの視線を受けて、銀牙は遠くを見やったまま口を開く。
「…冬の終わりであります。この音は雪崩でありますよ。これから、あちこちで雪崩がある事でしょう。それが終わったら―――…」
ナスクの方を見て、満面の笑顔で両手を広げてみせた。
「春の訪れでありますよ!春は美しいです。雪解けの澄んだ水、木々や草花の芽吹き、冬眠から目覚める動物たち…早くナスク殿にも見せたいです!」
つられてナスクも笑った。
長い長い、北の冬が終わる。
雪の下で現れ始めている春の兆しを見つめるように、銀牙は眼下に広がる雪景色を見つめた。
崖の縁に寄ろうと踏みしめるナスクの足の下で雪が鳴る。
不意に夢から現実に戻されたような感覚に襲われ、ナスクは表情を固くした。
ナスクの怪我はもう完治していた。
それはもうここにいる理由はないという事、いつでも先に進めるという事。
それが酷く寂しく、自分の行く先を煩わしく思って、ナスクは視線を彷徨わせてから再び銀牙を見上げた。
空の蒼に映える、銀の毛並み。
雪の反射を受けてそれはいっそう美しく輝くようだった。
森の生き物に畏怖され、獰猛な狼を束ねて護る者。
山を熟知し、長い時間を雪と共に生きてきた。
ひたすらに真っ直ぐ笑う銀牙は、この美しい土地において違う事なき雪の王だった。
―――もし自分がここに留まれば、銀牙にとってよくない事が起きはしないだろうか?
それとも一緒に行こうと誘えば銀牙は共に来てくれるだろうか?
自分が銀牙を庇護すれば、温厚で優しい彼は人間に受け入れられ順応出来るかもしれない。
しかし、このままここで暮らす方が彼にとっては幸せである事は分かっていた。
人間の醜さなど何も知らない、自然そのままの銀牙の澄んだ表情。
目を細めて、ナスクは眩しそうに銀牙を見つめた。

突然、銀牙の耳がピンと一方を向いた。
ほぼ同時にナスクが強ばった表情で銀牙に駆け寄り、その陰に隠れるようにする。
「…あれは」
遠くの一点を見つめて銀牙が訝し気に呟いた。
木々の合間を縫うように連なる黒い点、それは複数多勢の人間だった。
そちらへ踏みだそうとする銀牙の服をナスクが握り止める。
「駄目、銀ちゃん行っちゃ駄目だよ」
でも、と振り返って銀牙が言う。
「何だか困っているようであります。道に迷ったか、怪我人でもいるのか。大丈夫でありますよ、ナスク殿が髪を縛ってくれたから」
あっけらかんと笑うと制止するナスクの声も聞かず、ひとっ飛びで崖を降りるとその点の集まりの方へ向かう。
後に取り残されたナスクは、迷うようにした後、思い切るように後を追って駆け出した。

その一行はどこかの国の兵士であるようだった。
鎧に身を固め、物騒な武器を抱え、遠征の道中と思わしき出で立ちをしている。
数名が深刻な表情で話し合っていた。
「何かお困りでありますか?」
銀牙の声に振り向いた兵の顔が、瞬時に豹変した。
「―――雪の王!」
「やはり実在したか、化け物め!」
悲鳴と共に騒然となる隊。
「落ち着いてください!自分は化け物ではなくて、ただお困りのようでありますから、何か力に…」
宥めるように慌てて近寄ろうとした銀牙の頬を、一本の矢がかすめた。
一斉に攻撃態勢に入った兵達が、硬く警戒したまま銀牙を睨みつける。
予想だにしなかった彼らからの攻撃に驚愕して、改めて一隊を見回して銀牙は戸惑った。
彼らの、人間達の自分に対する恐怖だけではない感情に初めて気付く。
理由の分からない憎悪。
自分が存在している事にすら罪悪感を抱きそうになる程の、嫌悪と侮蔑。
キリキリと、弓を引く張りつめた音が静かに響いた。

「おやめなさい!」
唐突に怒声が響く。
振り向いた銀牙と一斉に集まった兵達の視線を浴びながら、ナスクがゆっくりと近づいてくる。
「この者は私を助けてくれた者です。命の恩人に手を出す事は私が許しません」
ナスクの言葉に兵士達が躊躇うように兵を率いる長を見やる。
一行に武器を収めるように合図して、隊長がナスクを睨んだ。
「王女。どういう事ですか、これは」
「…今回の事は私一人の気まぐれです。この者は関係ありません。みんなに迷惑かけてごめんなさい」
憮然とした様子の一行に向かってそう言い、そのまま隊長の方へ歩みを進める。
銀牙の方は見向きもしない。
「…ナスク殿…?」
不思議そうな顔をしている銀牙の呼びかけに初めて振り返って、ナスクは微笑んだ。
「ごめんね、銀ちゃん。巻き込むつもりはなかったんだけど。…あたし、やっぱりもう帰らなきゃ」
どうやら面識があるようである彼らは、故郷からのナスクの迎えなのだろう。
自分とは違って彼女には故郷がある。
同じ人間と共に暮らし、ちゃんとした食事があり、温かい家があるはずだ。
では何故、ナスクは一人でどこかへ行こうとしていたのだろうか。
故郷へ帰れるという今、何故こんな風に表情を強ばらせているのだろうか。
「―――よく、分かりません。大丈夫なのでありますか?ナスク殿はそれでいいでありますか?」
「いいの、大丈夫。最初から決まってた事なんだから」
何でもない事のようにそう言って自分から離れていく、ナスクのその背中が、何故か銀牙にはとても寂しそうに思えて―――…
思わず、銀牙はナスクの腕を引いていた。
「―――銀ちゃん!?」
ナスクが驚きの声を上げ、兵士達がざわめき立った。
「―――王女は自分がいただいたであります!返して欲しくば力ずくで取り返してみろであります!」
つっかえながらそう言い、銀牙は唖然とするナスクを担ぎ上げると踵を返した。
雪を蹴って崖の上に跳躍し、森の奥へ向かって疾走する。
人間の追っ手を振り切るなど、銀牙にとっては造作もない事だった。


ザッ、と音を立てて銀牙が着地する。
「…も、申し訳ないであります…つい…」
やっとナスクを雪の上に降ろすと、そう言って項垂れる。
頭にぴったりと伏せられた銀牙の耳を見て、呆然としていたナスクが不意に笑いだした。
「ふっ…あは、あはははは」
予想外の反応に唖然とする銀牙の前で、苦しそうに腹を抱えて笑う。
「やだもう、信じらんない。王女をさらっちゃうなんて」
涙目になりながらもどうにか笑いを止めたナスクが、大きく息を吐いた。
「…ナスク殿は、姫君だったのでありますか?」
問いかける銀牙に、ナスクは少し沈黙した後で小さく頷いた。

ナスクはルイジーア国の王女として生まれ育った。
幼い頃に両親が他界してから、自分を見る周囲の目が違っている事は気付いていた。
自分が将来国をまとめる指導者として期待されていない事も、ただの道具としか見られていない事も。
悟っていて、気にしないようにしてきた。
周囲に笑顔で話しかけて、たくさん勉強して、男に負けじと狩りや乗馬に精を出して。
それでも、ナスクはずっと孤独だった。
孤独なりに割り切って、諦めて、許される範囲で好きなように生きてきたのだ。
そんなナスクが、今になって国を飛び出したそのわけは。
「せいりゃく、結婚?」
聞き慣れない言葉に目を丸くする銀牙に、その意味を説明する。
「あたしは国を背負う者として期待なんてされてないからね。でも腐っても鯛、王女である事に代わりはないでしょう。あたしの国はそんなに大きくはないけど、豊かな資源を持つという強みがある。政略結婚によって手を結びたいという国は割とあるんだよ」
人間特有の私利私欲が絡んだ国交関係に、銀牙が困惑したように眉を下げる。
「よく分からないであります。結婚と国と関係があるのですか?本人が嫌なら断ればいいであります。狼の世界でも、雌は雄を選ぶでありますよ?」
「…そこが、人間の世界の難しくて汚いところなんだよ。どうしようもない事が、たくさんある」
相手の王子がルイジーア国の者と、結婚後の国交関係のあり方を相談しているのを聞いた事がある。
そこにはナスクの意志も存在もない。
既に分かりきっている事だったが、実際にその会話を聞いた事がナスクを吹っ切れさせた。
その日のうちに最小限の必要な荷物をまとめ、夜の闇に紛れて馬を出したのだった。
「…騙しててごめんね」
謝るナスクに銀牙はきょとんとした表情になる。
「ナスク殿は自分を騙したでありますか?」
「いや、騙してはいないけど…でも騙したようなものかなって」
「誰にだって言いたくない事はあるものでしょう?それに、こんな可愛らしいナスク殿が姫君であっても不思議ではないであります」
変わらない態度で笑う銀牙。
「銀ちゃん、口説き文句が上手いよ」
そう言って、ナスクも笑った。


足を止めて、銀牙とナスクは互いに目配せをした。
明らかに自分達のものではない複数の足跡が、洞窟の周辺に残っている。
「…ナスク殿」
「うん。囲まれた、ね」
姿を隠してはいても、微かな音、息づかい、そういったものが気配に敏感なナスクには分かる。
魔族の血を引く銀牙も当然悟っているようだ。
短く会話を交わして頷くと、ナスクは大きく息を吸った。
「大臣!…姿を見せなさい。近くにいる事は分かっています」
間を置かずして隊長―――の立場に身を置いていた大臣が、姿を現した。
こちらの出方を窺うように、ただ睨むようにしてナスクと銀牙を観察する。
「私は二度と国には戻らない。国は貴方に任せます。貴方と王子が好きなように政治を進めればいい、それで互いに幸せでしょう。必要なら婚約の誓約書でも何でも書きましょう」
だからもう解放しろ、自分には関わるな。
銀牙には見せた事のない強い視線と口調に、目の前の少女が本当に王女なのだという実感が強くなる。
ふむ、と考えるようにした大臣が、ここで初めて口を開く。
「いいでしょう。こちらとしても穏便に事が済むに超した事はない。…では」
幻の鏡を渡してもらいましょうか。
続いた言葉にナスクが表情を強ばらせた。
「どうしました?幻の鏡ですよ、貴女が肌身離さず持っている筈です。国宝がなければ政権を譲り受けたとは言えない、国として示しがつかないでしょう」
「…それは出来ない。これは渡すわけにはいきません」
急に勢いをなくしたナスクの口調。
ちらりと彼女を見てみれば、先程までの強い態度はどこへやら、不安気な、泣きそうな、追いつめられた表情になっている。
「幻の鏡は国の宝であり誇りです。私も、国民も、国がそれを必要としている」
「でも、貴方も存じているでしょう。これは」
反論しようとしたナスクの言葉を遮るように、大臣が手にしていた銃剣をおもむろに雪に突き刺す。
腹立たし気に舌打ちをして睨み付けてくる目からは、それまでの取り繕われた色が消えている。
「もういい!どうせ婚約の取り付けは既に済ませてある、王女に用はない。大事なのは幻の鏡だ」
それを合図するかのように、周囲から兵士達が姿を現した。
ずいぶん前から待機していたのか、既に武器を構えて戦闘態勢になっていた。
その様子に目を丸くする銀牙と青ざめるナスク。
「…まさかそんな事までは…いや、もしかして最初からそのつもりで」
独り言のように否定と推定を口にするナスクを馬鹿にするように、大臣は嘲笑した。
「―――魔族との混血の姫君など誰が祝福する?見ろ、やっぱり魔族は魔族、雪の王を手懐けているではないか」
吐き捨てられた、侮蔑の込められた言葉。
交わされた会話の意味が理解出来ず、銀牙は戸惑いながらナスクと兵士達を見比べる。
「やれ!まずは雪の王からだ、鏡を取り戻すのだ!」
「―――駄目!やめて!」
ナスクが叫ぶ。
発砲音と共に銀牙の身体から血が吹き出した。
初めて目にする武器とその威力に、銀牙が目を丸くする。
再びかかる号令と共に二隊目の発砲が銀牙を襲う。
「逃げて!」
倒れかけた銀牙の腕を引いてナスクが駆けだした。
すぐ側の洞窟に逃げ込み、血に染まってぐったりした銀牙を横たえる。
「なん、でありますか、あの武器は。何かが、すごい勢いで」
「…鉄砲という、最近開発された最新の武器だよ。魔族にも対抗できる威力を持つ上に、弾は退魔に有効な銀を使ってるって聞いた事がある」
この武器が出来た事によって、これまで一方的に襲われるばかりだった人間が魔族と渡り合えるようになった。
生粋の魔族にさえ対抗が可能なほどの威力の持つ最新兵器。
ただでさえ混血である上に、戦いとは無縁の世界で生きてきた銀牙では敵わない。
直に発砲した銃の新たな装填が済めば、逃げ場のないこの洞窟で攻め込まれては為す術もなく狙い撃ちにされるだろう。
このままでは二人とも殺される、それならば。

不意にナスクが銀牙の前に立った。
振り返り、銀牙を見下ろして微笑む。
「あたし、普通の人間に見えるでしょう?…でもね。銀ちゃんは知らないかもしれないけど、普通、こんな早く骨折が治る事はないよ」
しっかりと地を踏みしめる足は、もう些かの痛みもない。
「銀ちゃんは知らないかもしれないけど、人間がこんな色の眼を持つ事はない」
銀牙を見つめる鮮やかな翠緑の瞳が、少しだけ震えた。
「あたしの父は一国の王、母は生粋の魔族。何だか妙な組み合わせだけど。…銀ちゃんと同じ、あたしは魔族の血を引く者なんだ」
首から下げた首飾りを服の中から取り出して見せ、グ、と握る。
「これが、さっき言ってた幻の鏡と呼ばれる国宝。魔力を封じ込める力があるの」
物心がつく前から持たされ、肌身離さず持つようにと言われていた。
この首飾りによって、お前はお前を保っていられるのだと。
「姿はこんななのに、あたしの魔力は強いんだって。魔族の血が入ってるからにはきっと姿が変わる。力を解放したら、もう元に戻るかどうか分からない」
静かな声で言うナスクに銀牙はただ困惑するしかない。
酷く寂し気に、ナスクは笑った。
「良ければ覚えてて。ナスクというのは、あたしの国の古代語で“太陽”という意味があるの。…あたし、本当に太陽だったら良かった」
そうすればこんな風に銀牙を巻き込む事もなかったのに。
銀牙はただ、銀の雪と眩しい日差しの中で笑っているだけで良かったのだ。
ナスクは鎖を引きちぎった。
首飾りによって封じられていた魔力が溢れだし、ナスクの姿形が変わっていく。
その変化に銀牙が息を飲んだ。。
じわじわと輪郭が原型を失って膨らんでいく。
尖った爪と牙、淡い金に輝く鱗、背に生えた固い翼。
―――それは、小さくも立派なドラゴンだった。
雄叫びを上げ、宝石のような翠緑の眼が兵達を睨んだ。
一歩踏み出して威嚇するように吼えるドラゴンに、距離が近づいた分だけ兵達が後退する。
「ナスク殿!」
呼び止める銀牙を睨みつけて尾で突き飛ばすと、ドラゴンは扉を閉めて出入り口の脇にあった岩に体重をかけた。
重い地響きを立てて、岩が洞窟を封じる。
「どういうつもりでありますか!」
一気に光の量が減った暗い洞窟の中で銀牙は叫んだ。
焼け付くような痛みをこらえて駆け寄り、扉に身体を押し当てて全身の力を込める。
次の瞬間、外から響いてくる轟音と地響き。
ドラゴンの咆哮と兵達の悲鳴が届き、続く発砲の連続する音がそれをかき消した。
「―――ナスク殿に酷い事をするなあああぁぁ!」
銀牙が、絶叫した。

「続け、早く装填するのだ!」
隊長が鉄砲隊に指示する横で他の者が次々と矢を放つ。
硬い鱗は矢を寄せ付けないが、既にドラゴンは先ほどの銃弾で地に臥していた。
低く唸りながら起き上がろうとする身体のあちこちから血が吹き出る。
怒り狂うように吼えて、ドラゴンが尾を勢い良く回した。
避け損ねた者が弾き飛ばされ、数メートル先に落下して動かなくなる。
立ち上がったドラゴンの周囲で、ガチャ、ガチャ、と無機質な音が響く。
装填を終えた鉄砲隊の銃先がドラゴンに向けられた音だ。

次の瞬間、大爆発が起こった。
それは、洞窟を塞ぐ岩が吹き飛ぶ音。
舞い上がる土煙に消される視界の中を、白い影が飛ぶように動いた。
悲鳴と共に、あちこちで血飛沫が花火のように散っては消える。
姿の見えない敵に恐怖が兵達を支配する。
たちまち陣は崩れた。
うっすらと視界が明確になるにつれて目に入る、血と肉塊が散乱した惨状。
強い鉄の臭いが鼻を刺激する。
その中でゆっくりと振り向いたのは、自分がよく知る者、しかしそこにはどんな感情も見られない。
返り血と自らの血で真っ赤に染まった銀牙を見て、ドラゴンは低く静かに唸った。
不意にハッとしたように顔を上げ、大きな身をくねらせて銀牙の前へ躍り出た。
間髪を入れず続く発砲の音。
身体を仰け反らせて倒れるドラゴンに、冷たい目をしていた銀牙に表情が戻った。
「―――ナスク殿っ!」
地響きを上げて倒れたドラゴンが血を吐いて痙攣する。
徐々にその輪郭が小さくなったかと思うと、羽も鱗も消え、少女の姿に戻ったナスクがそこに横たわっていた。
「止めを刺せ!」
号令と共に空気を切る音が響き、庇うようにナスクに覆い被さった銀牙の背中に矢が突き刺さる。
攻撃の合間の隙をついて、銀牙が再び動いた。
身体の痛みも、攻撃されているという痛みも、もう感じなくなっていた。
ナスクが苦しんでいる。
その事に対する痛みだけが銀牙を支配していた。
敵を倒さなければ、少女を守らなければ。
雪と氷に閉ざされた世界に突如訪れたナスクは、自分にとってはその名の意味の通り太陽のようだった。

―――ナスクを守りたい。


白い雪の上に点々と赤い色が続いていた。
銀牙とナスク、二人の血だ。
「…ナスク殿」
呟くような銀牙の呼びかけに、ナスクはもう応えない。
それでも抱きかかえたまま、倒れそうになりながら一歩ずつ足を進める。
「もう少し待つであります。すぐに、水が飲めます」
雪解け水が作る小さな小川まで来て、力尽きて雪の中に倒れ込む。
僅かに顔を動かし、目の前にあるものを認めて銀牙は目を細めた。
小さな花が雪の中から顔を覗かせていた。
淡い黄色、若々しい新緑の葉、それはフキノトウだ。
傍らの少女の髪と瞳と同じ色のそれに、銀牙はそっと手を伸ばした。

春が、訪れようとしていた。



*****



何故こんな話にしたし。
何も考えずに見切り発車で書いてたらこんな事に…!
これは駄目だ。この話はアカンかった。
話の流れ的にもいまいちだし、結末も多分今まで描いた中で一番のBADENDじゃなかろうかwww

ナスクがまさかの王女だよ!
取りあえず最初はナスクはただの王女だったけど、ナタル族的な意味で魔族との混血もいいんじゃないかと思った!
あと本編ではルイジーアは国じゃなくて大陸の名前なんだけどねwww自分にしか分からない自己満足ネタwww
パロだから!これパロだから!
空月は人間と混血だったけど、今回は二人とも混血!
だいぶ書いてから銀ちゃんの氷を操る能力を無視してた事に気付いたの…(´・ω・)

何かもう色々酷くて自分でも納得がいかないが、とても楽しかったです(にこ)

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無題
うおおおおおおおおおおおおおおおまああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
あの銀日が小説に!!!!!!!!!!!!













!!!!!!!!!!!!!!!
泣いたわ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
とてもボイスじゃ言えんわ!!!!!!!!!!!!!!!!!!表現しきれんわ!!!!!!!!!!!!!!!!(;皿;´)
いやでもシンさんのクオリティやら表現やらもうパネェとしか言いようがないわけなんだが銀牙なぜなっちゃんを守りきらんかったんじゃボケコラーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!orzorzorz
ううう……でもすごく素敵だった…!!!
なっちゃんの王女設定!!!違和感のないストーリー展開…!!!!
銀牙の口調がまんまでびっくりしたけど、それも不思議とマッチしている件!!!
とにかくごちそうさまでした…!!!く…ッ……つらいけど確かに滾った俺がいる……!!!
ハレタカ 2011/06/04(Sat)20:54:47 編集
>ハレさん
言うと思ったwww <なぜ守りきらなかった
どうやら私の中で、“パロの魔族設定=畏怖と差別の対象=殺される”というイメージが定着してるようです!
でも銀陽で悲恋は何気に初めてだからこれもいいかなって!ごめーんね!
椎晴で悲恋はよくやるけど、銀陽は基本ほのぼのイメージなので私も辛かったです(いい笑顔 / オイ)
違和感のないストーリー展開…そんな事言われて「…そうかなぁ」とストーリーを思い返そうとしたけど、不思議と途中の記憶がありません。
でも読み返すのも面倒ry
なので、光栄すぎてgkbrするけど有り難く受け止めておきます!
悲恋好きな奴ですみません!銀ちゃんまで殺してマジですみませんでも楽しかったです電車の中でにやにやしながら書きました。
また誰かお借りすると思いますすみませんここまでお借りするなら自己満足と言わずに文章力ももっとつけるべきだと思いました。
シン 2011/06/04(Sat)21:17:14 編集
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