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サイト『果てない大地 遠い空』の別館です。 異文化SchoolDays企画でのチャットに関するレポート、なり茶告知の場所です。
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真夏に書いた真冬の物語。
本当はちょっとシリーズ的な感じにしようと思ったんだけど、休日中に完成しなかったので完成したものからとりあえず上げておく。
何だか恥ずかしい、頭のゆるいお話ですお借りしたものの例の如く別人な感じが否めない。
スラルフメインです。


出演:ラルフ・スライル・(名前だけ)唯真


お借りしました!!!

*****



ラルフは浮かれていた。
何といってもクリスマスである。恋人の祭典である。
いかに自分の恋人が、鈍感で、子供で、我侭で、マイペースで、そういったイベントに無頓着であるといっても、それとこれとは話が別だ。
特別な何かを求めも、期待も、してはいなかった。
期待しない程度には、ラルフはスライルたる人物のことを分かっていたからだ。
とはいっても、それはイコール何もしないということではない。
今日は明日の終業式、明後日からの冬休みの準備で教員は忙しい。
明日は午前中で終業式は終わるが、教員はその後も何かと作業があるに違いない。
それでも遅くても夕方頃までには終わって帰れるはずだから、そのままスライルと合流しよう。
スライルの方が先に帰れそうなら待機させよう。
予定など聞いていないが、いつも相手の予定を確認せずに振り回しているのはあちらの方なのだ、知ったことじゃない。
夕方頃から大通りをクリスマスのイルミネーションが飾るはずだから、近くまで車で行ってのんびり歩いて時間を潰すのもいい。
途中でどこかブランドのお店に入って、スライルに合ったスーツを見繕って着せよう。
そうして夜になったら高級フランス料理店でワインを傾けるのだ。
形式ばった堅苦しいお店をスライルは嫌がるが、その気になれば社交界でも通用する完璧なテーブルマナーを披露することをラルフは知っている。
彼はやればできる人なのだ。
美しい夜景を見ながら、数週間前から考えて用意したプレゼントを渡す、なんて素敵なクリスマスだろう。
彼は自分にプレゼントの用意などしているだろうか?
していたとしても学校には持ってきていないだろうから、そのままデートをするなら交換という形では無理かもしれない。
まあ、期待はしないでおこう。なんたって相手はあのスライルだ。

妄想は広がる。
誰に迷惑をかけるでもなし、妄想するだけならタダ、である。
緩む頬を無理矢理抑えて通知簿の整理をしていると、唐突に職員室に入ってきたスライルが空いていたラルフの隣の席にドカッと腰を下ろした。
机に頬杖をついて、ラルフの横顔をじーっと見てくる。
「……何?暇ならやるべきことをやったら?明日の準備とか……」
「終わった。後は明日当日にしか出来ないことだ」
終わった?スライルが?サボりじゃなくて終わった者の余裕?
だがしかし、確かに言われてみれば唯真が暴れることもなく平穏に過ごしている。
これがいつものように何も大丈夫じゃない状況であれば、彼女が愚痴を言うなり逃げるスライルを追って暴れるなりしているだろう。
「……そ、そう。珍しいことも、あるものね?」
驚きに目を見開いて頷くラルフに、ふと周囲を見回すとスライルは彼女の耳元に口を寄せた。
「今晩はイブで明日クリスマスだからな。もちろんお前、夜は予定空けてあるんだろ?」
たまにはお前が望むようなエスコートをしてやんよ、と紳士用の綺麗な笑顔で微笑む。
ギョッとして思わず後ずさり、急な重力の変化に倒れかかるイスの背を素早くスライルが支えた。
「おい、ちょっと落ち着け。お前が怪我でもしたらどうすんだよ」
「な、ちょ、なな…」
クリスマスというイベントを意識していただけでも驚きなのに、何やら考えてくれている。しかも周囲が散々言うような“普通にしてれば”以上のカッコ良さを持って。
乙女ゲームに出てくる攻略対象キャラのような微笑みに、周囲に何やらキラキラ光るオーラまで出ている気がして本当に同一人物なのかと自分の目を疑うことしか出来ない。


――なんてことはなく。
先ほどから地響きと轟音が響く中、ラルフは数人の教員と共に作業に勤しんでいた。
音楽室は今日も荒れ模様、自分の恋人がもう一人の音楽教員からの飽くなき逃亡劇を繰り広げているようだ。


その地響きと轟音が聞こえなくなってしばらくした頃、ラルフは唯真に用事を思い出した。
彼女が中々手に入らず探していたクラシックのCDを思いがけず手に入れ、クリスマスプレゼントにするわねと約束していたのだ。
キリのいいところで仕事を中断させ、綺麗にラッピングした包みを手に音楽室へと向かう。
こっそりと覗くもそこに唯真の姿はなく、気配を察したスライルが顔を向けて「よう」と手を上げた。
「あら、唯真先生は?絶対ここにいると思ったのに」
「つい今までいたけどな。どっか行ったわ。まあすぐ戻ってくんじゃね?」
ちょうど良かった、とスライルが立ち上がる。
「明日も時間あるかどうか分からねえからな。渡せる時に渡しておくわ」
そう言って取り出したのは、ささやかな包み。
目を丸くして包みを凝視するラルフの手の中にそれを落とし、開けてみろ、と視線で促す。
「お前がどんなもの喜ぶか分からねえけど……一応用意してやったぞ。もし明日二人でどこかへ行けるなら、これつけて来いよ」
可愛らしいリボンをほどくと、中から現れたのはシンプルなリング。
手を伸ばしてそれをつまむと、感激で何も言えずにいるラルフの右手の薬指にはめてみせる。
「……まあ、とりあえずはここな。どうだ、サイズもぴったりのものを用意する俺様すごいだろう」
盛大にドヤ顔する彼に、今は苛立たしさも憎らしさも微塵も感じはしなかった。


――なんてことも勿論なく。
唯真はちゃんと音楽室にいたし、スライルは隙あらば手を休めようとしていて、その空気の修羅場っぷりにラルフはこそこそと引き返してきたのだった。
まあ、後で彼女が職員室に戻った時か明日中にでも渡せば問題ないだろう。


冬は日が暮れるのが早いが、これが夏だとしても暗くなっているであろう時間になってしまった。
一人また一人と席を立つ教員と、お疲れさまと声を交わしながら、既に疎らになっている職員室を見回す。
スライルはもう帰ったのかまだなのか、一向に職員室に戻ってくる気配がない。
もう帰っちゃおうかな、でも少しでもいいから顔を見たいな。
決めあぐねて、ホットドリンクでも買いに行こうと廊下へ出ると、ちょうど入ってこようとしたスライルと正面からぶつかった。
「おっと。ちゃんと前を見ろって…うわ、お前の手冷たいな」
反動でよろめいたラルフの腕をガシッと掴んで、冷えたラルフの手を包むように握り込んでくる。
「遅いのよ、どれだけ待ったと思ってるの?身体だって冷えるわよ」
「わり、時間かかったわ。もー…あいつ始終睨みきかせてんだもんよ隙もねえしおっかないったら」
普段からちゃんとしないから、と説教をしかけるラルフの言葉を遮るように握った手を掲げて、腰に反対の手を回すとクルクルとダンスするように回転しながら職員室に入った。
「さ、帰るぞ帰るぞ!こんな時間だしこのまま食いに行くか。今日はクリスマスイブだしな、軽いデート気分で。お前なに食いたい?」
ラルフにコートをテキパキと着せ、自身も羽織ると鞄とラルフの手を握って飛び出すように職員室を後にする。
いつもながらのマイペースっぷりに溜息をついて、それでも一緒にいられることが嬉しくてラルフはつい笑った。
「何でもいいわよ、でも今からだとどこも客でいっぱいじゃないかしら。ちょっと遅くなるけどいったんうちまで来て、車を置いて近くに食べに行く?その方が時間的にもいいかも」
「そだな、任せるわ」
裏口から駐車場に出ると、途端に冬の突風が二人を襲う。
「うっ、さむ…」
思わず身体を縮こまらせて身震いしたラルフの肩を抱いて、スライルが大きな片手でラルフの両手を握りしめる。
「寒い?」
「…寒くないわ」
寒いけど寒くない、大好きな人といるというのはそういうことだ。


――というのもまた、実際とは違っている。
スライルの職員室帰還を待機していたラルフの元に戻ってきたのは、鬼の形相をした唯真一人であった。
自分を見て瞬時に花がほころびそうな表情になった彼女曰く、「俺は帰る」と書き置きのメモを置いて一瞬の隙のうちに消えていたそうだ。
まだ少しだけ作業が残っている唯真を労って、ラルフは自身も帰る準備を始めた。


車を駐車場に停めて、寒さから逃れるように早足で廊下を渡り自室の扉の鍵を回す。
カチリと音を立てて鍵がかかり、もともと開いていたということに気付いて少し狼狽える。
部屋の鍵は、朝に確かにかけた筈なのに。
このマンションはセキュリティが厳しいから、外部の人間が侵入ということはまずないだろう。
きっと鍵をかけたつもりでかけられてなかったのだろう。
大丈夫だ、おそらく、多分、きっと。
警戒心全開でそっと扉を開けると、玄関に脱ぎ散らかされた見覚えのある男物の靴。
ああ、何だ、スライルが勝手に上がり込んでたのね。合鍵とか渡した覚えはないけど。
完璧なセキュリティーを売りにしていたからこそこのマンションを選んだのにこの有様はどうかとも思うも、スライルが本気を出せばそんじょそこらのセキュリティーなどないも同じなのだろう。
何にしても勝手に侵入するのには流石に、文句の一つでも言わなければ、と意気込んで玄関に上がり明かりのついてるリビングへ向かう。
「メリクリおか」
そう言って入ってきてラルフを迎えたスライルは、キッチンへと回り込んで冷蔵庫からワインを取り出した。
出来合いのものではあるがチキンや様々な料理が秩序なくテーブルの上に並び、ケーキまで用意されていた。
「……これ、貴方が用意したの?」
「お前が帰ってくるまでに買い物して来んの大変だったぞ。チキンどこも売り切れてっし」
唯真に隙がなくて抜け出すのが大変だった、とグラスを差し出すスライルに、彼女に申し訳ないと思いつつも頬が緩むのが止められない。
「もう、どうせならもっと綺麗に並べてくれたらいいのに。お皿もちゃんとクリスマス用のお洒落なのがあるんだから……ちょっと待ってて、用意するわ」
「何だって同じだろ、腹減った」
お皿を取りにキッチンへ向かうラルフに、文句を言いながらもついてくる。


――察しのとおり、これまた妄想である。
ちゃんとかかっている鍵をあけ、人気のない部屋の電気を点け、出勤用スーツから部屋着に着替えるとベッドに横になった。
何とはなしにならないケータイを持ち上げて眺めた後、リモコンでTVを点けて特集をやっている番組にチャンネルを合わせた。


入浴も済ませた深夜、ラルフはリラックスしていた。
翌日に仕事が終わった後に着る服をコーディネートし、色に合わせて鞄もばっちり。
ネックレスはこれがいいかしら、それとも服の胸元が開いてるからこっちの大きい方がいいかしら。
なんてウキウキと並べたアクセサリーを手に取っていると、不意にベランダから聞こえるガタッという音。
少しの間を置いてガチャガチャと、なにやらガラス戸の鍵がいじられるような音が続く。
「……な、何?」
ジリ、と後ずさり、後ろ手に触れたものを掴むも、包装紙を丸めたものなど気休めの武器にすらならないと投げ捨てる。
一際大きく金属音が響いたかと思うとガラス戸が開き、カーテンが揺れる。
夜の風と共に現れたのは、スライルだった。
「ちぃーす、ちょーっとお邪魔すんぞ」
強盗の如くドカドカと、我がもの顔で部屋に上がり込んでくる。
ホッと肩の力を抜くもののその非常識な行動にラルフは眉を上げた。
「ちょちょ、ちょっと!勝手に上がってこないでよ!ていうか今何時だと思って…」
「今すぐ外へ出る準備しろ」
有無を言わせないスライルに、ラルフの口が「はあ?」という形に動いたまま固まった。
そんな様子を意に介せず、勝手にクローゼットやタンスを開け閉めしてポイポイと服を床に放り投げる。
それらを手にしてズンズンとラルフに近付くと、セーターをすっぽりと被せ、ズボンを押しつけ、コートを羽織らせ、マフラーをグルグル巻きにし、最後に大きな毛布で包み込むようにしてラルフの体を簀巻きにするとそのまま担ぎ上げた。
「よし、行くぞ」
「なに、ちょ、なに考えてるのよ!やだ私すっぴんなの髪セットしてないのやだってば下ろしてバカー!」
「大丈夫だ問題ない、いつもとそんなに変わらん」
「問題ありすぎよ!さいてー!」
喚くラルフをスルーしてベランダに出ると、靴をはき、手すりから空中へと躍り出た。
その浮遊感、スピード感に恐怖しか感じず、声も出ずに思わずスライルにすがりつく腕に力を込める。

妄想じゃない、これは断じて妄想などではない。
妄想ならもう少しマシなものをする。
ここまで酷い扱いは想定外ならず妄想外だ。
最低、最悪、いくらなんでもよりによってこんな現実って有り得ない。

トン、と二人分の体重を支えたにしては軽い音を立てて、一際高いビルの頂点にスライルは降り立った。
ようやく解放されて、ラルフは若干ふらつきながら周囲を見回す。
「……なんで、こんな所に」
「おし、間に合ったな。あっちだあっち、見てろ」
言われるままにスライルの指す方向、ビルの町並みを見やる。
1000万ドルの夜景と言われる、建物やネオンから成る光の海。
その瞬間、その一角で一際大きな明かりが派手に輝いた。
とあるショッピングモールのある建物に隣接した観覧車と、その周辺のビルとで連携しているのだろう、クリスマス限定のイルミネーションが夜を彩る。
「綺麗……」
思わず、寒さも、怒っていたことも忘れていた。
「日付変更の瞬間はクリスマス限定のイルミネーションの中でもまた違うんだってよ。ここからが一番見やすいスポットだ」
立ち尽くすラルフの隣に腰かけてスライルがラルフに視線を移した。
「メリクリ」
いえ~い、と変なジェスチャーをしてくるスライルにムードが一瞬でブチ壊される。
苦笑して、ラルフは毛布を巻き直すとスライルの横に同じように腰を下ろした。
「メリークリスマス、素敵な夜ね」

特別な何かを求めも、期待も、してはいなかった。
それでも本当に何かをしてくれるなら、せめてもうちょっとこう、予定空けておけとあらかじめ言うとか、優しくお姫様抱っこで連れてきてくれるとか、スタイリッシュに決めてほしかった。
自分に有無を言わさず引っ張りだしたその手際の良さはスタイリッシュと言えなくもないが、これだとスタイリッシュにシュールだ。
それでも、現実はこんなものなのだろう。
スライルはそういう人だし、そんな彼を自分は好きになったのだし、何だかんだで彼も彼なりに自分を喜ばせようとしてくれている。
そのデリカシーのなさに怒ったり拗ねたり振り回されながら、これからも自分は彼の傍に居続けるだろう。
そのことが、そう思える相手がいることが、幸せだと思う。
 

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